第9章 修行
まあ、何と言うか、そんなに都合の良い事はそうそう起こらないらしい。
千寿郎君は杏寿郎さんの様に『見る』事が出来なかった。
「も、申し訳ありません・・・」
しゅん・・・と肩を落とす千寿郎君。
この子が謝る必要なんて微塵も無くて、寧ろ勝手に期待してしまったこちらの方が悪いのに。
そもそもの話、私の時戻りを唯一認識出来る杏寿郎さんと千寿郎君では、色々と違っていて当然じゃないか。
「気にするな千寿郎!普通は見えなくて当然だからな!全く問題無い!」
「千寿郎君、杏寿郎さんの言う通りだよ。それにね、こうして刀の色が変わっただけでも、凄い進歩だと思う」
「兄上、名前さん・・・」
杏寿郎さんがワシワシと頭を撫でると、千寿郎君はほんの少しだけ笑顔を見せてくれた。
「日の呼吸の型は俺が教える!二人で共に頑張ろう!」
「は、はいっ!」
本当に仲の良い兄弟だなぁ・・・。
ふと、千寿郎君と抱き合う杏寿郎さんを眺めていて思った。
そういえば、杏寿郎さんは始まりの剣士である継国縁壱さんについて、どう思ったのだろう。
縁壱さんと直接会った事のある炎柱の人は、生まれながらの資質と才能の違いに自信を失くしてしまった。
それを知った槇寿郎さんは自身の強さに限界を感じ、そこへ瑠火さんの死が引き金となり心が折れた。
じゃあ、杏寿郎さんは?
記憶の戻った私が語ったそれで、彼は縁壱さんの事を知ってしまった訳で。
彼の言う『見た』ものの中には当然、縁壱さんの規格外な強さとかがある筈で。
剣士でもない私は、凄い人なんだなぁ位にしか思えないけど、剣士である杏寿郎さんはそう言う訳にはいかないのでは?
でも、今のところ杏寿郎さんに目立った変化は無い。