第9章 修行
つらつらと日の呼吸の型を言い連ねる杏寿郎さん。
私の場合は実物、というか縁壱さんが技を繰り出しているシーンを映像で見て、尚且つそれが記憶に焼き付いてしまっている訳だけど。
杏寿郎さんは確か、私が記憶の戻った時にお話を聞いただけの筈。
それにしては、正確過ぎるのでは?
「えーと・・・杏寿郎さん、教えられるんですか?」
「うむ!実戦となるとまた違うだろうが、型をなぞるだけならば問題ない。見たからな!」
見た・・・見た?
見たとは何ぞや??
「君が語った物語を思い起こそうとすると、何故か脳裏にその様子が浮かぶ。まるで己が目で見たかの様に」
「そ、そんな事、あり得るんですか?」
「実際俺はあり得たからな。不思議な現象だが、これも例の力が関係しているのかも知れん」
いつの間にそんな不思議現象を体験していたのか。
「あ・・・私、今思ったんですけど、それってお話を聞いた人皆に該当するんでしょうか?」
「む、どうだろうな?」
「ここは一つ検証あるのみですね!という訳で千寿郎君!さっきのお話の気になる部分とか、思い浮かべてみてくれる?」
「え」
急に話を振られた千寿郎君は、大きな目をこれでもかと見開いた。
「千寿郎、縁壱殿の日の呼吸を思い起こしてみなさい」
「は、はい。それでは・・・」
ギュッと目をつぶる千寿郎君を、私と杏寿郎さんは食い入る様に見つめる。
何とも奇妙な光景だが、今この場でそれを指摘する人間は居ない。
暫くして、ゆっくりと千寿郎君が目を開けた。
「千寿郎君!ど、どうだった!?」
「千寿郎!!」
「わわわっ!?」
私と杏寿郎さんが勢い良く詰め寄ると、千寿郎君はギョッとして仰け反った。
「ちょっ・・・お二人共、近いです!」