第8章 煉獄家
結論から言うと、槇寿郎さんは怒っていなかった。
というか、逆にお礼を言われてしまった。
今回は結果的に丸く収まっただけであって、私が失礼な態度をとった事に変わりはないのに。
そう思っている事が顔に出ていたのか、槇寿郎さんが苦笑しながら「俺には丁度良かったんだ」とか「もう気にするんじゃない」とか言って優しく頭を撫でてくれる。
ふと、槇寿郎さんの所作に私は、顔も思い出せない自分の"お父さん"を感じた。
そうして私はちょっとだけ、槇寿郎さんの父性と、大人の男性が持つ包容力に甘えさせて貰うのだった。
何となく、穏やかに微笑む槇寿郎さんを前にして思うのは、これがこの人の本来の姿なんだろうな、という事。
「槇寿郎さんはそうやって笑うと、本当に杏寿郎さんと良く似ていますね」
「それは違う。確かにあの子は煉獄家の外見的特徴を色濃く受け継いではいるが、どちらかと言うと面立ちは俺よりも妻の・・・瑠火に似ている」
何かを思い出す様にして、槇寿郎さんが瞳を伏せた。
「外見だけでなく内面もそうだ。真っ直ぐで芯が強く、俺とは似ても似つかない。杏寿郎も千寿郎も素晴らしく、立派な子だ」
「・・・確かに息子さん達が色々な面で素晴らしいのは頷けますけど、でもやっぱり槇寿郎さんに似ていますよ。だって二人とも貴方と同じでとっても愛情深いもの」
「!」
私の言葉に一瞬目を丸くした槇寿郎さんは、少し困った様にして笑った。
ほら、その笑い方だって杏寿郎さんと似てる。
親子だなぁ、って思う。
「これからは、杏寿郎さんと千寿郎君の事を、いぃ~っぱい!可愛がってあげて下さいね。それから槇寿郎さん自身も、幸せになって下さい」
「・・・君は、」
「約束、してくれませんか?」
「・・・ああ、約束しよう」
「ありがとうございます!」