第8章 煉獄家
会話が途切れた丁度その時、千寿郎が昼食の仕度が出来たと二人を呼びに来た。
「千寿郎の作る料理はどれも絶品なのだ!君もきっと気に入るだろう!」
そう言って、杏寿郎は名前の手を取り客間から連れ出した。
いつもの調子を取り戻した杏寿郎が、ハキハキとした明るい声で弟の料理自慢をする。
その後は弟の素晴らしさについて語り始め、名前は楽しそうに相づちを打った。
「兄上!」
二人の前を行く千寿郎は、背後で交わされる会話に思わず足を止めて振り返る。
「む?どうした千寿郎?」
「コホン。その、それ以上は気恥ずかしいので止めて下さい。それから名前さん、後生ですから兄の言葉を鵜呑みにしないで下さい」
耳を朱くした千寿郎はそそくさと厨に向かった。
キョトンと千寿郎の後ろ姿を見送った杏寿郎と名前は、互いに顔を見合わせる。
「千寿郎君、照れてましたね」
「うむ」
「可愛い・・・良いなぁ煉獄さん。私もあんな弟さんが欲しいなぁ」
ウフフと笑う名前を見て、杏寿郎は思わず(俺と一緒になれば、千寿郎は君の義弟となるな)などと口走り掛けた。
「時に名前、君は俺の名前を知っているだろうか?」
「え?ええ。それは勿論知っていますけど・・・?」
杏寿郎の問に答えながら、名前は首を傾げた。
「この家の者の姓は皆"煉獄"だ!」
「まあ、そうですね?」
「君は父の事も弟の事も、名前で呼んでいるな!」
「えーと、駄目でしたか?」
「駄目ではないが!」
何故か腕を組んで名前を見下ろす杏寿郎の圧が凄い。
「あ、あの、それじゃあ煉獄さんの事も、名前で呼んだりとかしても・・・?」
途端に杏寿郎はパァァー!と表情を輝かせた。
「うむ!!是非とも呼んでくれ!」