第8章 煉獄家
テテテと小走りで廊下を進む名前の前に難所が現れた。
風呂場からここまで誰にも遭遇していないという事は、この先の部屋に居る可能性が高い。
廊下の両側に襖、つまりは部屋があり恐らく人(煉獄家の人々)が居る。
ここからはより一層気配を消し、尚且つ素早く通り抜けて客間に辿り着かなければならなかった。
「よし・・・行くぞ」
そーっとそーっと・・・足音を消して忍び足で歩く名前の両手の平に汗が滲む。
一部屋二部屋とクリアし、残す後一部屋を通り抜ければ客間だ。
名前が僅かに気を緩めた、その時。
「名前」
真後ろから声が掛かり、名前はビクッと肩を跳ねさせる。
ギギギと音がしそうな動きで振り返ると、そこには杏寿郎が立っていた。
「れ、煉獄さん・・・」
振り向いた名前の姿を目にした杏寿郎の隻眼は心なしか据わっており、真顔でスタスタと近付いて来る。
走った事で襦袢が乱れ、あられもない格好になっているのに気付いていない名前は、杏寿郎の醸し出す空気に飲まれて動けない。
「君、そんな格好で何してるんだ」
「え」
そんな格好・・・?と名前が視線を下に向けると、乱れた襦袢の胸元からは紺色のブラが、広がった裾からは生足が覗いているではないか。
「~~~っ!?」
自分は一体何処の痴女だ、とパクパクと口を動かし声にならない悲鳴を上げた名前から、タオルに包んだ帯やら腰紐やらがボタボタと落ちる。
杏寿郎は慌てふためく名前の羽織っていた着物の前を閉じてその身体を米俵の様に担ぎ、もう一方の手で名前の落とし物をかき集めて拾い、客間へと向かった。