第8章 煉獄家
「はぁ・・・つ、疲れた・・・」
腕と肩に軟膏を塗布し、何とか無事に包帯も巻ききった。
人間の口はこの為にあるとばかりに、片腕の代わりとして包帯の端っこを咥えたり引っ張ったりと大活躍。
巻いた包帯が所々よれたり捻じれたりしているのはご愛嬌だ。
お次は着物を着なければ、と手を腰に立つ私の今の姿は、ブラとパンツを身に付けただけ。
実はこの下着、隠の縫製係の人に頼み込んで作って貰ったオーダーメイドなのだ。
未来の技術で作られた下着を再現するのは中々難しい、とか言いながらも前田さんはやってくれた。
ネイビーのブラとパンツの上下セットを一週間分。
但し、その中には何やら怪しげな生地で作られたスケスケのものが紛れていて、発見と同時にしのぶさんが即行で燃やしていた。
その時の彼女の後ろ姿はとても怖かった。
「先ずは足袋を穿いて・・・っと。次がえーと、確かこうだったかな」
襦袢を肩に羽織り袖を通した私は、さっき着せて貰った時の事を思い出しながら、紐の片側を左肘と腰骨で押さえつつ、モタモタと腰紐を結ぶ。
「うーん・・・鏡が欲しい」
傷に軟膏を塗る時から思っていたけれど、一人だと見えない部分に手が回らない。
只でさえ片腕が不自由なのに、そこへ着慣れていない着物を着るとなれば、難易度が格段に跳ね上がる。
「よし!客間に行こう」
お風呂場から鏡の置いてある客間迄、誰にも見つからない様にすれば問題無いだろう。
襦袢は着ているが念の為その上から着物を羽織り、丈が長いので引き摺らない様に裾を持った。
カラリ。
お風呂場の戸を開けた私は、キョロキョロと素早く周囲に視線を走らせた。
「誰も居ない、よね。今の内に・・・っと!」