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loop-ループ-いつか辿り着く世界【鬼滅の刃】

第8章 煉獄家


名前が風呂場で四苦八苦している頃。
杏寿郎は槇寿郎と二人横並びに座り、縁側で茶を飲んで居た。

「父上、母上の着物をお貸し頂きありがとうございました。彼女もとても喜んでいました」
「・・・ああ。杏寿郎、あの娘はお前と恋仲なのか?」
「いえ・・・ですが、俺は彼女を・・・名前を好いています」
「そうか・・・」

こうして父と同じ時を過ごすのは、何時ぶりだろうか。
母が亡くなってから、全てがどうでも良いと只管酒を飲み、やさぐれていった父。
剣を手放し、自室の真ん中に敷かれた布団に寝転んだまま、声を掛けても碌な返事が返って来なくなってから、どれだけの月日が過ぎたのか。
けれど、今日、名前がそれを変えてくれた。

「・・・杏寿郎」
「はい」
「・・・お前は、俺を恨んでいないのか」
「父上、俺は貴方を恨んだ事など一度もありません」

杏寿郎は正面を向いたままの父の横顔が、苦しそうに歪んでいくのを見た。

「すまなかった・・・。自分の無能さに打ちのめされていた折りに瑠火を喪った事で、俺は酒に逃げてしまった。そしてお前と千寿郎から目を逸らし続け、長い事蹲り続けた。俺は、本当にとんでもない大馬鹿者だ」
「父上・・・」
「杏寿郎、立派になったな。俺が教えるのを放棄した後も、お前はたった三巻しかない指南書を読み込んで鍛練を重ね、柱となった。俺と違って本当に素晴らしい息子だ」
「・・・」

ポタリ、と頬を伝い落ちるものがあった。
視界に映る父の姿が歪んで見え、杏寿郎は自分が涙を流しているのに気付く。
カタン、と音がしてそちらを見れば、同じ様に涙を流す千寿郎が立っていた。
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