第8章 煉獄家
かぽーん。
皆様、浴室に木霊する音でお分かりでしょうか。
私こと苗字名前は、只今煉獄家のお風呂で絶賛入浴中でございます。
どうにかこうにか入浴順の一番最後を勝ち取りました。
煉獄さんの圧に負けなかった私、偉いぞ!
って言うか、初訪問のお宅でお風呂って、凄いチャレンジャー。
煉獄家のお風呂場は蝶屋敷のそれとはまた一味違うけれど、床に埋め込まれた浴槽は広く足が伸ばせる程だ。
棚には石鹸とかその他諸々揃っているし、広々とした浴室全体には清潔感が漂っている。
浴槽のお湯が冷めたら、隣に備え付けられた釜から熱いお湯を足せるんだとか。
ちょっと試してみたいけど、蓋とか重そうだし残念ながら片腕では無理っぽい。
「ぐぬぬ・・・」
一人だと今まで如何に蝶屋敷の皆に助けられて居たかが分かる。
右腕と右腕の届かない部分が上手く洗えない。
髪の毛も、片手で洗うのって中々に難しい。
風呂桶に頭を突っ込むこの姿、誰にも見せられないね。
取り敢えず油じゃなくてコンディショナーが欲しい。
「はぁー・・・」
漸く全てを洗い終え、湯槽に浸かる。
たかが入浴に、こんなに体力を使うとは。
チャポンと音を立てて左腕を持ち上げると、それは酷く血色が悪かった。
右腕と比べて明らかに太さが違うし、肩には裂けた傷を縫い合わせた赤黒い痕もある。
大分マシになってきたけれど、これは一生残ると言われた。
記憶にはない煉獄さんを庇った時に負ったらしいこの傷痕、絶対彼には見せられない。
「あ」
そういえば、肩と腕の包帯どうやって巻こう。
蝶屋敷ではいつもアオイちゃん達がやってくれていたけど、ここは煉獄家だ。
・・・うん、一人で頑張ろう。
大丈夫、着物を脱ぐのも包帯を解くのも出来たんだから、何とかなるさ。