第8章 煉獄家
「手を・・・この様に、押さえながら腰紐を・・・」
誰かに着物を着付けてやるのは、千寿郎が今よりもっと幼かった頃以来だろうか。
「む・・・細い、な・・・」
「え」
「いや、何でもない」
背後から腕を回し着付けをしていると一層良く分かる、名前の細く華奢な身体付き。
それでいて触れるとどこまでも柔らかく、フワフワしている。
女性とはそういうものだと理解してはいたが、それが名前だというだけで、こんなにも心が乱される。
このまま組み敷いたら、彼女はどんな反応を示すだろうか・・・等と邪な思いに駆られ、つい必要以上に触れたくなってしまう己の欲深さ。
「・・・苦しくないか?」
「へ、平気です!」
今更ながら、嫁入り前の娘の身体を着物越しとは言え無遠慮に触れてしまっているが、名前はどう思っているのだろうか・・・と、実のところ杏寿郎は気が気でなかった。
名前の様子を見る限りでは、恥ずかしそうに顔を赤らめつつも、嫌がっている風には見えないのがせめてもの救いか。
細い腰にグルグルと帯を巻き付けながら悶々としていると、口数の減った杏寿郎を気にしてか、名前がチラチラと視線を寄越して来る。
「・・・この髪を結っているリボン、使ってくれているのだな!」
「あ、はい!未だ片腕が使えないのでアオイちゃん達にお願いして結んでもらってるんですけど、もう一つ買って頂いた組み紐と代わり番こで使ってるんです」
「そうなのか」
「・・・どちらも私の宝物です」
「!」
意識を別の方へ向けようとして振った話題だったが、思いの外名前から嬉しい返答を貰えた。
「君にとても似合ってる」
「あ、ありがとうございます・・・」