第8章 煉獄家
目を閉じてふぅーーー・・・と長く息を吐く杏寿郎。
その様子を見た名前はオロオロと落ち着かない。
「あああ、あの!ご、ごめんなさい煉獄さん、お見苦しいモノをお見せしてしまって・・・」
名前は襦袢の前を掻き合わせ、ペコペコと頭を下げた。
「あの、本当にごめんなさい!お着物は、折角のご厚意ですけど、もう・・・濡れた服は、お天気も良いですし、干しておけば直ぐ乾くと思うのでぇっ!?」
突然杏寿郎にガシッと肩を掴まれ、名前は驚いて目を白黒させる。
「すまない!もう大丈夫だ!さあ着付けを始めよう!!」
「は、はい?」
「うむ!先ずは襦袢だな!これはこの様に襟を少し抜いて合わせ目はこう・・・む、背は丸めずに真っ直ぐ立ってくれ・・・うむ、そう・・・良い子だ」
名前の背後に立った杏寿郎は、無心でテキパキと手を動かし着付けを進めつつ、名前の身体の柔らかさや仄かに薫る甘い匂いに理性がガンガン蹴り飛ばされる。
名前はというと、杏寿郎に後ろから抱き締められる様な体勢で、時折耳許に吐息混じりの低い声で話し掛けられる度に、口から心臓が飛び出そうになった。
「ぅんっ・・・!」
首筋に杏寿郎のフワフワとした髪の毛が掠め、思わず妙な声が漏れ出てしまう。
それを耳にした杏寿郎は腰紐を結んでいた手を止め、ギギギと音がしそうな動きで名前を見下ろした。
「む・・・ど、どうした?締め付けがキツいか?」
「い、いえ!大丈夫です!」
「そうか!では続けるが良いだろうか!!」
「はい!お願いします!!」
お互い無駄に声が大きくなっているが、それを指摘する者は今この場に誰も居ない。