第1章 死なせない
「もう!さっさと消えてよ!」
女の拳が猗窩座の顔面目掛けて飛んでくる。
その速度は視線で追いきれず、軽くかするだけでも肉が削げ落ちた。
「・・・・・・」
しかし、何度も繰り返し拳を受ける事で気が付いた。
当たれば威力こそとてつもないが、技が無い。
単調なそれを躱すのは造作も無かった。
「何で・・・何で、やり返してこないの!」
「お前は女だ。俺は女とは戦わない」
空振った拳を下ろし、女は呻く。
おそらく、元々暴力的な事に免疫が無かったのだろう。
拳が猗窩座の身体を掠める度に、怒りを灯した瞳の奥に段々と微かな怯えが見え始めていた。
もう先程の動けなくなる様な威圧も出ていない。