第8章 煉獄家
「よもや・・・どうしたのだ?」
今にも泣きそうな表情の名前は、何故か炎柱の羽織りを巻き付ける様にして身に纏っている。
「わ、私・・・お着物、一人で着れなくて、その・・・」
「うん?」
俯いてボソボソと話す名前の声は聞き取り難く、杏寿郎は彼女の傍へと近付いて耳を傾けた。
「だから・・・あの・・て・・・さぃ」
「む。すまないが、もう少し大きな声で喋ってくれまいか」
「わ、私に!お着物を・・・き、着せて、下さい!!」
名前は杏寿郎に向かって自棄糞気味に叫び、バッと頭を下げる。
キーンとした耳鳴りを感じながら、杏寿郎はたった今言われた台詞を脳裏で二度三度と反復し、片方だけになった焔色の瞳でマジマジと名前を見つめた。
彼女の顔は伏せられて見えないが、耳が朱く染まっている。
「・・・・・・」
この場合、自分は何と返答すれば良いのだろうか、と杏寿郎は腕を組み思案する事、数秒。
どうやら名前は一人で着物を着れないらしい。
そういえば初対面時は変わった服装をしていたし、記憶にある限り洋装以外の彼女を目にした事が無かった。
一応嗜みの一つとして、自分は女性の着付けを一通り習得しており、名前は一刻も早く着替えねばならない状態にある。
「うむ!理解した!俺が着せてやろう!」
「よ、宜しくお願いします!」
今、鬼殺隊炎柱 煉獄杏寿郎(二十歳)の理性が試される。