第8章 煉獄家
「うむ!早く着替えた方が良いな!」
何故か明後日の方角に視線を向けている杏寿郎は、名前に着物類一式を手渡すと立ち上がり、スタスタと歩いて部屋を出た。
「煉獄さん?」
「俺は部屋の外で待機している!着替えが済んだら声を掛けてくれ!」
「え?あ、はい・・・?」
襖の向こうから聞こえる杏寿郎の声に首を傾げつつ、名前は着物を見て唸る。
「どうしよう・・・」
洋服が主流の現代人である名前は一人で着物を着る事が出来ない。
しかも今は片腕が不自由ときている。
一先ず濡れたブラウスとスカートを脱いで、そっと肌襦袢に腕を通してみる。
「え、と・・・どっちが前になるんだっけ?こっち、いや、こっちだったっけ・・・?」
モタモタと帯紐を腰の辺りで結ぶ名前の襦袢の合わせは左前、つまり死装束になっていたりするのだが、ここには突っ込みがいない為そのまま彼女の着付けは進む。
襦袢の上に単衣を羽織る名前の眉間はこれでもかと皺が寄り、無理矢理帯紐で結ばれた着物は上手くお端折りが出来ていない為、ズルズルと裾を引き摺る状態だ。
「ううう・・・もう無理ぃ~」
ガックリと両膝を付き、orzのポーズを取る名前。
最早自分の手ではどうにもならないと、そっと襖を開けて廊下に顔を出した。
「あの、煉獄さん・・・」
「む、終わったか?」
襖に背を向けて立っていた杏寿郎は、振り向いた瞬間ポカンとした。