第8章 煉獄家
「失礼します父上!」
スパーーーン!
声掛けと同時に襖を開くと、槇寿郎は既に着替えを終えていた。
「母上の着物を借り受けに参りました!」
「ああ、そこに用意してあるから持って行きなさい」
「ありがとうございます!!」
示された場所に置いてある着物を手にすると、杏寿郎は再び名前が待つ客間へ急いだ。
「ハァ・・・まったく、騒々しい息子だ」
ドタバタと走り去る息子の所業に溜め息を吐きつつ、苦笑しながら槇寿郎は厨へと足を向けた。
「名前、着替えを持って来た。入っても良いだろうか」
襖越しに、部屋の中に居るであろう彼女へと声を掛けたが、返事がない。
「・・・失礼する!」
意を決して杏寿郎が襖を開くと、部屋の隅で炎柱の羽織りに包まり丸くなって眠る名前の姿があった。
まだまだ暖かい季節とは言え、濡れた衣服は早急に着替えなければ風邪を引いてしまう。
「名前・・・起きてくれ」
杏寿郎が近付いて肩を揺り動かすと、伏せられた目蓋がピクリと反応する。
「ん・・・煉獄、さん」
「うむ、目が覚めたか。気分はどうだ?母の着物を持って来たのだが、起きて着替えられるか?」
「あ、はい・・・何とか、大丈夫みたいで、す・・・着物?」
杏寿郎の手にある襦袢や帯紐、菫色の単衣に白い帯等を目にした名前がゆっくりと身体を起こすと、炎柱の羽織りがスルリと肩から滑り落ちた。
途端に濡れた衣服の冷たさを感じ、くしゃみが出る。