第8章 煉獄家
あんな悲しい終わり方は嫌だ。
黎明の闇を照らす日の光の中、幼さすら感じる笑顔を浮かべ、ゆっくりと息を引き取った彼。
どんなにか痛かっただろう、苦しかっただろう。
「目を逸らさないで、もっと見てあげて下さい!声を聞いてあげて下さい!」
私は動かすなと言われている左腕を無理矢理動かして、目を見開いて硬直する槇寿郎さんの手を握る。
その大きな手の平の皮膚は硬くて、煉獄さんと同じく長い間ずっと刀を振い続けた証だ。
アドレナリンが出ているのか、ほんの少し顔をしかめる程度の痛みは許容範囲内だった。
「この手で、頑張ったなって、頭を撫でてあげて下さいっ・・・今からでも遅くないんです、だから・・・っ」
一度は救えたからといって、この先煉獄さんが死なない保証は何処にも無い。
未だ鬼側は鬼舞辻無惨と上弦の鬼が全員揃っている状態なのだ。
それに、炭治郎君が痣を発現させたら、鬼殺隊の柱達はやがて皆痣者になるだろう。
それは煉獄さんも例外じゃなくて、死ぬ事を厭わない人だからこそ、むしろこの先の未来を知る彼ならば既に試しているかもしれない。
そう思った時、カクンと足の力が抜けて膝を付いた。
「どうでもいいとか、言わないで・・・」
ここへ来る時は快晴だったのに、いつの間にか空が真っ黒な雲に覆われ、雨が降り始めていた。
雨足はあっという間に強まり、ザーザーと音を立てている。
何故か視界が暗くなり、耳鳴りがした。