第8章 煉獄家
「名前さんといったか、愚息が世話をかけた」
「・・・い、いえ」
近くまで来られて、槇寿郎さんが煉獄さんよりも若干背が高いのに気付いた。
先程の言動や無精髭や鋭い目つきも伴って、荒々しいというか粗暴さを感じる。
何て言うか、一言でこの人を表すなら、ヤベー奴、である。
既に逃げ腰の私は煉獄さんと手を繋いでいなければ、早々に踵を返して退散していると思う。
「その腕・・・杏寿郎を助けた時のものか」
私の左腕に巻かれた包帯を目にした槇寿郎さんは、ギラリと煉獄さんを睨み付けて指差した。
「俺はお前に何度も言った筈だ!さっさと剣士など辞めろと。たいした才能も無いお前のくだらん夢や正義感の為に、その娘は負う必要のない傷を負い、お前の左目は失なわれたんだ!」
槇寿郎さんの言葉が、刃となって煉獄さんに降りかかる。
隣に立つ煉獄さんの様子を伺えば、彼は黙って槇寿郎さんの事をじっと見ていた。
「人間の能力は生まれた時から決まって「才能のある者は極一部。あとは有象無象。何の価値もない塵芥だ、でしたっけ?」・・・っ!?」
言葉尻を捕らえるかの様にして、私は槇寿郎さんが紡ごうとしていた台詞の続きを口にした。
驚いた様な表情の槇寿郎さんを横目に煉獄さんを仰ぎ見ると、彼も同様の表情で私を見下ろしている。
こうして見ると、二人は本当によく似ていると思う。