第8章 煉獄家
「どうした?」
杏寿郎に声を掛けられた名前は、何の事かと一瞬キョトンとする。
そうして杏寿郎の視線を辿った先に、彼の羽織りを掴む自分の手があった。
「あ」
割りと最近にもしている無意識の行動に名前は顔を朱くすると、慌ててパッと手を離した。
が、一瞬早く杏寿郎の手に絡め取られる。
「うむ!一先ず中へ入ろう。千寿郎、茶の用意を頼めるか?」
「はい!兄上!」
千寿郎が踵を返し、一足先に屋敷の中へ入ろうとしたその時、ガラリと音を立てて玄関の戸が開いた。
「ち、父上・・・」
「家の前で何を騒がしくしている」
煉獄家特有の毛先の赤い金髪も、くっきりとした太い眉も焔色の瞳も同じなのに、纏う雰囲気だけが息子達と全く違う。
映像で見て槇寿郎の事を知ってはいたが、その姿を目にした名前は思わず肩を跳ねさせた。
「父上、兄上が名前さんをお連れして、今そちらに・・・」
「名前?」
槇寿郎は胡乱気に杏寿郎達の方を見やる。
「父上!只今戻りました!」
「チッ・・・」
杏寿郎の良く通る大きな声に顔をしかめつつ、槇寿郎は千寿郎の横を通り過ぎて杏寿郎の正面に立つと、息子の横に居る存在に視線を向けた。