第7章 協力者
屋敷の門前でじゃあなと軽く手を挙げた天元は、元忍者らしく一瞬で姿を消した。
それを見送った杏寿郎は、踵を返して再び屋敷へ戻る。
この後自分も任務がある為時間は然程しか取れないが、どうしても名前の顔が見たかった。
返事が無い事を承知の上で戸を叩き、勝手知ったる室内へと足を踏み入れた。
窓際のベッドで点滴を受けながら眠り続ける名前の傍らに立ち、普段とは比較出来ない程の小さな声で、囁く様に名を呼んだ。
「名前・・・」
杏寿郎が手の甲でスルリと頬を撫でたその時、ピクリと名前の瞼が動いた。
ハッとして眠る彼女の顔の横に手をつき覗き込むと、長い間閉じられたままだった瞼がゆっくりと持ち上がる。
「名前!」
ユラユラと彷徨う瞳がピタリと杏寿郎の顔を捕らえると、名前はポロリと涙を一滴こぼした。
「煉、獄、さ・・・けほっ・・・っ」
杏寿郎は軽く咳き込む名前の背を支えて少し起き上がらせると、近くに有った吸い飲みを口許へ寄せた。
僅かに水を含んだ名前はもういいと首を振り、杏寿郎はそっと彼女を横たわらせた。
「大丈夫か?」
「はい・・・ありがとう、ございます」
「今直ぐ胡蝶を呼んで来るから待っていなさい」