第6章 彼女の力
要が蝶屋敷から飛び立つのと入れ違いに、隠が飛ばした鎹鴉がやってきた。
「報告。神社ノ鬼ノ討伐任務完了。重傷者ハイナイガ、血鬼術ヲ受ケタ隊士八名ヲ治療ノ為蝶屋敷へ向カワセル。到着予定時刻ハ午後十時」
「そうですか、報告ご苦労様です」
しのぶが頷くのを見届けたその鴉は軽く一鳴きすると、再び夜空へと羽ばたいた。
それから暫くして、名前を連れた杏寿郎が屋敷へやってきた。
「胡蝶、すまないが彼女を診てやってくれるか」
しのぶは杏寿郎から状況報告を聞きながら診察室へと進み、杏寿郎はその後を付いて歩く。
杏寿郎の腕に抱かれた名前は、多少擦り傷が出来ているけれど、見た感じただ眠っている様だった。
「例の力を使ってかなり無理をしたみたいだった。意識を失くす前、胸の辺りを押さえて苦しそうにしていた」
杏寿郎は診察台に名前を寝かせると、名残惜しそうに名前の額を撫でてから、部屋を出ようと診察室の扉に手を掛ける。
ふとその時、名前の語った物語の一部が脳裏を過った。
「胡蝶、君は自分を上弦の弐の鬼に喰わせて殺す為に、藤の花の毒を摂取しているのか」