第6章 彼女の力
ガシャッ。
しのぶは準備していた診察器具を取り落とし、バッと後ろを振り返った。
「煉獄さん、今、何と・・・?」
「自分を喰わせて鬼を殺す為に、藤の花の毒を摂取しているのか、と言った!」
扉から手を離し、杏寿郎がしのぶと向き合う。
「何故、貴方がそれを知っているのですか」
自分の身体を高濃度の藤の花の毒で満たし、それを喰わせる事で、大切な姉を殺したあの憎い鬼を殺す。
誰にも、お館様にさえまだ話していない秘密だった。
いつもの微笑みを消したしのぶは、杏寿郎に鋭い視線を向ける。
「ふむ。その様子ではどうやら本当の事の様だな。いや、疑っていた訳では無いが・・・よもやよもや、毒を摂取した自分を喰わせて鬼を殺すなど、正気の沙汰ではないな!
だが、君が鬼を殺す毒を開発した事。俺は素直に凄いと思っているし、尊敬もしている!」
否定の言葉とは裏腹に、杏寿郎のしのぶに対する態度はいつもとまるで変わらない。
何を考えているのか分からない杏寿郎に、しのぶは僅かな苛立ちを感じた。
「それで?」
「む?」
「煉獄さん、貴方にどう思われても私の意志は変わりません。私は絶対に上弦の弐を殺す。私は私のやり方で姉の仇を討ちます」