第6章 彼女の力
ーーー同時刻、蝶屋敷。
「アオイ、名前さんは見つかりましたか?」
しのぶの問いに首を横に振ったアオイは肩を落とした。
そんな彼女の背をそっと撫で、しのぶは窓の外に浮かぶ円い月を見つめてポツリと呟く。
「名前さん・・・一体何処へ行ってしまったのですか」
信じられない話だが、名前は一緒に居たアオイの目の前から忽然と姿を消してしまったのだという。
しのぶからの頼まれ事を済ませ、屋敷の廊下を二人並んで歩いていたところ、ほんの瞬きの内に名前が隣からパッと消えた。
残されたアオイは、一瞬何が起きたか分からずその場に立ち尽くし、いつまで経っても戻って来ない二人を探しに来たしのぶに声を掛けられた途端、アオイは顔を青ざめさせて彼女に助けを求めた。
しのぶは一瞬鬼の血鬼術を疑ったが、夜は常に藤の花の香が焚かれているこの場所でそれはない、とその考えを打ち消すも、一先ず屋敷の建物の中を捜そうと割ける人員全てで捜索したが、名前は見つからなかった。
「これだけ探しても見つからないとなると、もうこの蝶屋敷には居ないと見ていいでしょうね」
今夜は色々と長い夜になりそうだと、しのぶは溜め息を吐いた。