第6章 彼女の力
「俺も君が好きだ、名前」
杏寿郎は泣きそうな表情で微笑み、意識を失くした名前の身体をそっと抱き締めた。
止まっていた時が動き出し、無音だった世界に音が戻ってきた。
杏寿郎は名前の背中と膝裏に腕を回し、大切そうに抱き上げた。
周囲では無事だった隊士達が倒れた隊士の介抱をし始め、杏寿郎に名前を横からかっさらわれた形の福田は、二人の様子を気に掛けつつ乃木の元へと走っていく。
そんな中で、近くに待機していた隠し達が現場に現れると、いよいよ境内が慌ただしくなった。
「杏寿郎!杏寿郎!蝶屋敷ニ名前イナカッタ!」
「む、要か。案ずるな、名前は此処に居る」
バサバサと羽音がして振り返った杏寿郎は、少しだけ慌てた相棒の声に苦笑しながら答える。
要は近くの木の枝に留まると、不思議そうに首を傾げた。
「蟲柱達ガ名前ノ事探シテイタヨ」
「そうか。すまないが要、もう一度蝶屋敷へ飛んでくれるか。今から名前を連れてそちらへ向かう、と胡蝶に言伝てを頼む」
「分カッタ」
相棒の鎹鴉が飛び立つのを見届けた杏寿郎は、近くに居た隠しの一人に声を掛ける。