第6章 彼女の力
「・・・え、と・・・そ、そうなの?」
「うむ!」
「そっか・・・」
それってどういう意味?
聞きたい様な、聞きたく無い様な。
「あ、あの、杏寿郎・・・今のって私のこと・・・ぅっ!?」
ドクン!
心臓が痛い・・・胸が、苦しい。
まるで胸に腕を突っ込まれてギュウギュウと心臓と肺を握り絞められているみたいだ。
はくはくと声にならない音が自分の口から洩れていき、ブワッと嫌な汗が出る。
「名前っ!?」
突然胸を押さえて蹲る私の肩を、杏寿郎が掴んだ。
キーンと耳鳴りがして、視界がどんどん暗くなっていく。
時間切れか・・・もうこれ以上、時を止めていられない。
どんなに凄い力を貰っても、平々凡々な私が器ではこんなものだ。
あーあ、もう少しだけ杏寿郎と一緒に過ごしたかったな。
「名前!名前!しっかりしろ!」
きっとこのまま意識を失えば、今の私は消える。
次に目を覚ます時には力を使いこなす事も、これから起こる事を皆に伝える事も出来ない。
役立たずの苗字名前の出来上がりだ。
「きょ、じゅろ・・・」
霞む意識の中で、炎の彼に手を伸ばす。
「大好き」
私は精一杯の笑顔を浮かべたが、それを最後にプツリと意識が途切れた。
願わくば、貴方が幸せになりますように。