第6章 彼女の力
名前は滔々と語る。
悲しい程に暖かい、日本一優しい鬼退治の物語を。
「杏寿郎の生き様を見て私は思ったの。このまま貴方を死なせたくないって。だから生きて、杏寿郎。どんな絶望的な状況に陥っても、最後まで諦めないで」
杏寿郎は無意識に自分の鳩尾に触れた。
猗窩座との戦いで貫かれる筈だったという場所。
その上から名前がそっと手を重ねてきた。
「もし杏寿郎が誰かの為にとかで死のうとしたら、絶対に邪魔してやるんだから」
名前は少々悪い顔で笑った。
「・・・この世界はね、もう私の知るものとは違う道を進んでる。だけどまだ同じところもあるから、それを上手く利用して、より良い道を探して欲しい」
「よもや・・・色々と信じがたい話だが、君が態々俺に作り話をする必要性も感じないな」
杏寿郎は小さく息を吐き、自分の手の上に重なる名前の手を握った。
それを一回り以上小さい手がギュッと握り返してきて、ブンブンと振られる。
「杏寿郎は運が悪かったね。こんな私の目に止まってしまったが為に、勝手に辿る筈だった運命から外されて無理難題を突き付けられちゃうんだから」
この世界は理不尽な死が溢れている。
そんな中で踠いて足掻いて生き残った上で、より良い未来を築き上げていく。
自分で言っておきながら、無理ゲーじゃん?と名前は思った。