第6章 彼女の力
「あの時のお礼なら、前にしてもらったよ?」
「うむ。記憶の戻った君には色々と聞きたい事が山とあるのでな、その前にもう一度伝えておきたかったのだ」
名前がキョトンとしていると、杏寿郎はニッコリ笑った。
ふぅ・・・と溜め息を吐いた名前は、スルリと杏寿郎の手から自分の手を取り戻し、ピッと人差し指を立てて自分を指す。
「・・・あのね杏寿郎、私という人間はね、とっても自己中心的なの。我が儘で自分勝手で、自分さえ良ければ後はどうでも良いと思ってる、最低の人間なの」
「名前はそん・・・「しー・・・。黙って最後まで聞いて?」むう」
口を開き掛けた杏寿郎の唇を閉じさせる様に、名前の細い人差し指が触れる。
杏寿郎は好いた女性を、彼女自身の口からとはいえ貶める様な台詞を聞かされて、少々不満に思った。
「私が貰った力を使えば、もしかして・・・鬼と鬼狩りの存在を、無かった事に出来たかもしれない。
例えば始祖の鬼の誕生を阻止しちゃえば良い。そうすれば鬼はもう居ないんだから、その所為で死ぬ人も不幸になる人も現れなくなる。
まあ、本当に出来るかどうかは分からないし、試してみるつもりも無いけど・・・だって、そんな風に過去を変えてしまったら、今の杏寿郎達がどうなっちゃうのか分からないもの」