第6章 彼女の力
「名前!」
二人に駆け寄った杏寿郎は、福田から奪い取る様にして名前を自らの腕の中に抱き込むと、顔に掛かっていた黒髪をそっと払い除ける。
右頬と右耳が擦れて血が滲んでいるのを見つけ、無意識に眉間に皺を寄せた。
「名前・・・っ!」
指先で傷に触れない様に顔の輪郭をなぞりながらも、名前を抱く腕が微かに震える。
華奢な身体は仄かに温かいが、呼吸が止まっていた。
「名前!息をしろ!」
杏寿郎は名前の後頭部を掴んで上を向かせ、カクンと開いた口を自らの唇で覆い、空気が洩れない様に鼻を摘まんでから慎重に息を吹き込んでいく。
唇を離し名前の口から息が吐き出されるのを待ってから、再度息を吹き込んだ。
すると、名前の身体がビクリと跳ねて、ゴホッと咳き込む。
「名前!!」
苦しそうに咳き込む名前の背中を擦りながらも、杏寿郎は安堵からホッと息を吐いた。
「大丈夫か?」
杏寿郎がハアハアと息を整える名前の顔を覗き込むと、視線が合った途端名前は大きく目を見開いた。
「きょ、じゅろ・・・?」
生理的な涙を流しながらも、名前は嬉しそうに微笑む。
「あはっ・・・杏寿郎だ・・・杏寿郎、もう一度、会えた」