第6章 彼女の力
鬼の血鬼術である音を遮る為には、刀から手を離して耳を塞ぐ必要があった。
けれども杏寿郎は平然と鬼に詰め寄ると、残りの二体の首を"炎の呼吸 伍の型 炎虎"で一気に斬り飛ばす。
「ば、馬鹿な・・・何故・・・」
杏寿郎の手にした刀身の赤い日輪刀が、黒い蛇鬼の尾から分離した五匹目の鬼の首を斬った。
胴と別たれた鬼の首は、驚愕の表情を浮かべて杏寿郎を見る。
「お、のれ・・・後少しで、妾は・・・」
ザーッと音を立てて最後の蛇鬼は灰となった。
それを見届けた杏寿郎は刀を鞘に収めると、耳の詰め物を取り除く。
鬼は四体に分裂している様に見せ掛けて、実は五体に分裂しており、残りの一体は黒い蛇鬼の尾に擬態していた。
杏寿郎が時戻る前の戦いでは、この擬態していた鬼が裏山に逃走している。
「苗字さん!苗字さん!しっかり!」
福田は倒れたまま意識の無い名前に駆け寄ると、抱き起こして必死に呼び掛けた。
「苗字・・・?」
聞き覚えのある苗字に振り向くと、そこにいる筈のない名前の横たわる姿が杏寿郎の目に飛び込んできた。
「な・・・名前っ!?」