第6章 彼女の力
コポコポと音を立てながら名前は暗い水の中をどこまでも沈んでいく。
息を吸い込もうとすれば口の中に水が入ってきて、水は吐き出す事も出来ず、当然声も出せない。
けれど不思議な事に、水の中は怖くも寒くも苦しくもなかった。
ーーーどこまで沈んでいくのだろう。
最初は何とか浮上しようと踠いていたが、無駄と悟ってからは諦めて流れに身を任せている。
『何だぁ・・・もう戻って来たの?』
不意に、誰かの声が聞こえた。
否、聞こえたというには少々語弊がある。
声は名前の頭の中に意味として直接伝わってきた。
ーーー誰?
声が出せない代わりに頭の中で問えば、少しの間の後に、膨大な映像が流れ込んできた。
それは、"苗字 名前" の失われた記憶。
『思い出した?』
ーーーうん。
そう、そうだった。
私は死ぬ運命にある煉獄杏寿郎を助けたくてアナタと取引をした。
過去の私を全てアナタに差し出して、私はあの人を助けに行った。
『全てじゃないよ。ちゃんと君の核は存在しているし、限定的にだけど、彼を助けたいという君の想いも残してあげたでしょ?』
ーーー核?
『苗字名前という人間の源。その人間を形作る根源。これを無くしたら君達人間は個を失う』