第6章 彼女の力
気付くと杏寿郎はいつも見回っている担当地区内の一画、この辺りで一番の賑わいを見せる繁華街のど真ん中に居た。
駅舎の屋根の上で数度瞬きを繰り返し、時戻りが起こったのだと瞬時に理解した杏寿郎は、例の神社へと全速力で駆ける。
「まったく・・・よもやよもやだ!」
懐から取り出した懐中時計の針が指す時刻は午後八時五分、前回救援要請を受けた時刻よりも二時間以上早い。
しかし、ここから神社まではどんなに急いでも三十分は掛かる。
死傷者が出る前に辿り着けるだろうか。
「それに、名前は大丈夫だろうか・・・要!」
時戻りの力は、戻る時間が長ければ長い程名前の身体に負担が掛かる様だった。
自分を追い掛けて斜め後方を飛ぶ鎹鴉に呼び掛ける。
「俺は今から神社の鬼を狩りに行く!君は蝶屋敷に行って名前の様子を見てきて欲しい!」
「神社ノ鬼ノ討伐ニハ、甲二名ヲ含ム二十名ノ隊士ガ向カッタ。杏寿郎ガ行ク必要性ヲ感ジナイ」
「詳しく説明している暇は無い!頼む、要!」
「・・・分カッタ」
「ありがとう!」
蝶屋敷の方角へと翼をはためかせる相棒に礼を言うと、杏寿郎は呼吸の精度を上げて更に速度を早めた。