第6章 彼女の力
名前は杏寿郎を自分の力に巻き込んだと言ったが、そうではない。
名前の方が時戻りの力を使う事で、否応なしにこの戦いの連鎖に巻き込まれてしまっているのだ。
その事実に気付いた時から杏寿郎は、如何にして彼女を守るかを考えていた。
杏寿郎からして見れば、名前は箱入り娘と言っても過言ではない。
聞いた限りでは、先の世は血生臭いものとは無縁の生温い世界で、身も心も柔いままに生きられる様だった。
その生温さは名前自身にも当てはまるのではないだろうか。
彼女は死を身近に感じていない。
鬼殺の隊士である杏寿郎に対して、平然とまた今度と口にする。
彼女の居た先の世では、それが普通なのだ。
「俺は、出来れば君に幸せになって欲しい」
「え?」
しかし、鬼が存在するこの世でそれは通用しない。
このままでは彼女は直ぐに傷付いてボロボロになってしまう。
隊士ではない彼女が身体を鍛える必要はないが、心だけでも強くなって欲しい。
元の時代に戻れないなら、尚更にそう思う。
「昔、父がよく言っていた。つい先日、笑いあった仲間が死ぬのはよくある話だ、とな。俺も含めて鬼殺隊の人間は皆が常に死と隣合わせだという事を、君は理解しているだろうか」