第6章 彼女の力
癸の隊士の話によると、討伐対象の鬼はかなり強力な力を持つ鬼だったそうだ。
鬼は巧妙に姿を隠してそこそこ立派な神社を根城にし、血鬼術で参拝者に暗示を掛け、毎夜人を喰らっていた。
この鬼の血鬼術は暗示を具現化するという、なんとも恐ろしいもので、暗示に掛かった者は例えば『腕が切られた』と思い込めば、本当にその状態になってしまう。
鬼の暗示は音を媒体にしており、それに気付いた時には討伐に向かった二十人の隊士の内、半分以上が倒されてしまった。
何とか鬼を追い詰めるも、神社の裏手の山中へと逃げられてしまい、ここで付近に居た隊士が合流して鬼を追い、漸く倒す事が出来たという。
「もっと早く音に気付けていれば、被害も少なく鬼を倒せたんだろうな・・・」
「あの、その音ってどんな音だったんですか?直ぐに気が付かないって事は、きっと分かりにくい音だったんですよね?」
何となく気になって、肩を落とす癸の隊士に私は質問する。
「えーと確か、虫の羽音みたいな感じだったって・・・俺は後から合流したから、耳栓して聞こえない様にしてたけどな」
「虫の羽音、ですか・・・」
もしも前以てそれが分かっていれば、こんなに沢山の怪我人が出る事も無かったんだと思うと、居たたまれない。