第9章 第三夜…宵闇に溶ける
顔を上げた彼は暫く海の方に目を向けていた。
だけど私に向き直った表情からは笑みが消えていた。
「俺も大概だけどな……旭、話すのはいいけど工藤と寝るな」
「………そんな、事」
また、そんな命令口調。
本当に私をペットか何かと思ってるのだろうか。
大体私はこの人の何に属してる訳でもない。
「聞けない?」
「何でですか? だって私、まだ遥さんの事だって」
そんなに良く知ってる訳じゃない。
もう遥さんの理不尽は受け入れたくない。
目を見て言う勇気はまだなくて、俯いたままで口にする。
私は正しいことを言っている。
なのに、反抗期の子供みたいな気分。
「……分かった。 つか、今日は最初から結構ムカついてたしな」
私が顔を上げる前。
その言葉と共に、体がふわりと浮いた。
彼が肩に私の体を折り曲げて抱え上げたからだ。
「え、っ……はる」
「舌噛むから黙ってろ」
軽々と私を乗せたまま、港とは反対側に大股で歩いていく。
公園の中のロープが張ってある茂みを越えて、暗い木々の合間。
こんなの立ち入り禁止の場所の筈。
そんなに私、他に彼を怒らせるような事をした?