第9章 第三夜…宵闇に溶ける
暗くて良かった。
けれどいきなり、この人はまたこんな恥ずかしい事を聞いてくる。
遥さんが頭を下げて私の耳に軽く触れた。
柔らかくて少しだけしっとりとした彼の唇。
「隠しても無駄。 そん時何考えてた? 俺は優しかったか」
低くて小さな声。
呪文みたいに直接頭に響いてきた。
そんな所で話さないで。
「ん……遥さんは優しくな…いです」
「だから自分でする時位の俺は優しくしたのか?」
そうじゃない。
遥さんは遥さんで変わらない。
「……いえ…やっぱり少しだけ意地悪、で」
私に顔を寄せたそのままの位置で、私とは違う意味で彼の声が震えた。
「また引っかかる」
「………」
……また遊ばれた?
「あっ、いえ! でも、一度だけ……で、って、遥さんってば!」
波止場の柵にもたれて自分の腕に伏せてる彼。
もう止めろ、と言わんばかりに私に向かって手のひらを向けた。
そもそもだけど、遥さんって笑い上戸だと思う。
「だ…って私、今遥さんと、しか……」
恥ずかしい。
言い訳になってない。
なってないけど、なんか悔しい。
「あー…だろうな」
だろうな…って。
「……どういう意味ですか」