第8章 ふたりの嘘
彼に話す事ではないのかも知れない。
だけど話すとしたらこの人しか思いつかなかった。
和泉さんが戻るのは来週と聞いていた事、先程見た事。
「ふーん…一時帰国ね。 んで、返事無かったわけ。つか、いきなり他の男の話聞かせられるとは思わなかったけどな。 まあそりゃ工藤なら有り得んじゃないの」
「嘘が、ですか? 他の女の人?」
「両方。っても、俺もちょっとは他人の事は言えないか」
「自覚、あったんですね」
彼の言葉に心から驚いた表情をしていたと思う。
そんな私のリアクションに彼は思い切り不遜な顔で応じた。
「当たり前だろ。自覚無くあんな事やんなら俺、今100%警察か病院の厄介になってるわ」
そんな事を堂々と私に言われても。
頼んだ飲み物も冷えてきて、少し陽が翳ってきた。
ストールの端を引き寄せると遥さんが私の手を取り指先に口を触れさせた。
「寒いか。 どこかであったまりにでも行くか」
「っ! 結構です」
彼は外そうとした私の指先をぎゅっと握ったままそこに顔を伏せていた。
どうせまた何か失礼な事に受けてるんだ。
「旭顔真っ赤。 何でもいい。 メシでも遊びでも。 ちょっとそういう時は切り替えようぜ」