第7章 その『理由(わけ)』
海外出張中で多忙な彼にかこつけていた訳ではない。
遥さんと出会ってからのろのろと続いていた和泉さんとのやり取り。
この所、何度か文字を打っては消していた。
本当は直に話すべきだ、そう思っていた。
二度目に遥さんの所から帰ってきた翌日、私は彼に直接連絡を取ってみた。
遥さんと関係を続ける、それは所謂セフレ等という気楽なものではない様な気がした。
「今は夕方だから、向こうは休日の朝…なのかな」
「旭ちゃん?」
時差を心配して独り言を言っている間に直ぐに応答が帰ってきた。
久しぶりに聞く和泉さんの声。
心臓がどくんと跳ねた。
「何かあった?」
今まで私が電話なんてした事がなかったからだろう。
私を心配してくれているのだろうか。
胸を抑えていた手を思わずぎゅっと握る。
「ごめんなさ…あの実は、私」
「どうしたの」
「…橘遥さんってご存じですか?」
んー? と暢気な声が聞こえてくる。