第3章 攫われて
だけど物理的な痛みはどうしようもなく、堪えていた涙がじわりと滲んだ。
「……ひっい、和泉、和泉さん!」
そこにいる筈もない彼の名を思わず呼んだ時にぴた、と彼の動きが止まった。
なにか悪い事を言ったのだろうか? 私は震えながらじっとしているしかなかった。
「その名前を今口に出すな。まだ尻を張られたいのか?」
抑えたような、形だけが疑問になっている男からの問い。
だけどそこには私の選択肢など無い。
そんな事さえ奪われてしまった。
「ぅ…うっ…」
そう思い、体と心、両方のショックで余計に涙がこぼれてきた。
何も言えないでいると今度は今までの中でも一番の強さで引っ叩かれた。
「ひぁっ!」
同時にパァン!という音が部屋中に反響する。
剥がれてしまった皮膚に直接衝撃が走ったのかと錯覚した。
小さく呻く自分の声だけが耳に残る。
「返事は」
低く穏やかな声。
なのに私の体はそれに煽られたかの様にひくんと跳ねた。
「や、止め、て下さい」
涙を流したまま泣き声で訴える。
「も、もう言いません。 お願い……ですから」
痛みと混乱で訳が解らず子供のようにしゃくり上げる。
男は荷物かなにかでも扱うように私を寄せて抱え直し、ビリビリ痛むお尻をゆっくり撫でた。