第3章 攫われて
男は私の胸から手を離し、腰をかがめてベッドの下から何やらごそごそと大きな黒い旅行鞄の様なものを取り出した。
「開けてみろ」
「…何で、私が」
そう言いかけるといきなり私の髪の根元付近を鷲掴みにした。
ぐいと顎を逸らす様な角度にさせて男が顔を近付けた。
「俺の言う事は聞いた方がいい。言っとくがここは完全防音だから騒いでも無駄だよ」
無表情の男が怖かった。
やはり私の直感は間違っていなかったのだ。
髪から手を外し、目で鞄の方向へと合図する男を警戒しながら震える手でそのファスナーを外す。
「……………」
その中身を見て絶句した。
無造作に詰め込まれたその中身には大小のナイフや工具で使う様なカッター等の刃物。
長く巻かれたロープ、鞭の様な形状の長細い皮。
あとは所謂大人の玩具というのだろうか、色々な卑猥な形状のものが収まっていた。
「ペットの調教に使う物だ。とりわけ言う事を聞かない、な」
頭上から降ってくるそんな言葉に硬直して動けないでいた。
彼が着ていたシャツが無造作に床にばさりと脱ぎ捨てられたのが見えた。
「これのどれを使うかどうかはあんた次第だ。大人しく自分でベッドに乗れ」
そんな私に他に選択肢はあっただろうか。
涙を堪えながら手をついた私はのろのろとまたベッドに戻った。
「そのまま四つん這いになって尻をこっちに向けろ」