第12章 甘い月
……とはいえ、ここに来たのはやはり間違いだったのかも知れない。
「一人だよね、一緒に飲まない?」
「すみません、結構です」
「話し相手になってよ。堅いこと言わないでさ」
また声を掛けてきた男が図々しく隣の席に座ってくる。
体を引くとその分また寄ってきた。
精一杯までそうして、もうスツールから半ばずり落ちそうになりながらも抗議する。
「あの。 私はこんな事をしに来てる訳じゃないんです」
そう言った後、低く抑えたような笑い声が耳に届いた。
────その笑い方を私はよく知っている
「あ、ちょっと」
そんな背後の男の声を無視してグラスを手にしたままフロアに降りた。