第12章 甘い月
きちんとしたバーならともかく、パブやクラブと混ざった様な雑多な飲み屋。
そもそもこんな場所に女性だけでいるなんて良くない。
しかも、今回は私ひとりでだ。
相変わらず週末のここには不健全な空気が漂っている。
先程から客の男性から気安く掛けられる声に難儀しながら私は薄いお酒を口にしていた。
カウンターのあの場所に、彼の姿は無い。
空いたスツールを見詰めながら軽く息を吐いた。
遥さんがここに居るなんて馬鹿げてるのかも知れない。
週中に私は転職を決めた。
有難く遥さんのお爺様の申し出を受けて。
何もかも新しくスタートを切りたかった。
結婚をする前の、ほんの束の間の彼との蜜月。
間違いで危険で。
きつく、甘くひりつくような。
そして見えない所で私に触れてくれていた。
まだ彼の心の中に私が少しでもあるのなら。
『違う出会い方をしたかった。そしたら』
そうしたら、もう一度やり直せるだろうか。