第12章 甘い月
週末のこんな所では行き交う男女の会話も他愛なく軽いもの。
一夜限り、ワンナイトラブ、とかそういう言葉もあったっけ。
けれどそんなものにするつもりは無い。
「良ければご一緒に飲みませんか?」
酷く場違いな言葉遣いの様な気がした。
そんな私に笑いが止まらない様子で、だけどその人が細めた目を拭いながら見上げてきた。
「トロいあんたにしては早かったな。 ……こっちは一年位は待つ覚悟だったが」
グラスを合わせようとしたのかそれを差し出してきて、こちらもそうする。
一瞬きちんと目が合い、彼の気が変わったのか乾杯の前にカウンターテーブルにグラスが戻された。
遥さんが立ち上がり顔を寄せてくる。
ちゃんとキスから始めてみるってのはどうだ。
彼からの提案に微笑みを溢れさせて目を閉じた。
[完]