第10章 いくつかの誤解
部屋の中に嘘の様な静寂が訪れて遥さんがこちらに目を向ける。
「…巻き込んじまったな」
「遥さんは、最初から……?」
もしかして、このつもりで?
ベッドサイドに肘をついたまま遥さんがぽつりと話し始める。
「いや、あのバーで忠告だけする予定だった。 工藤の婚約の話聞いて見に行って、そしたら案外普通の女で。 もしかして趣味なのかと思ってカマかけてもみたけどな。 違うのは最初に気付いた」
こんなつもりは無かった、彼が決まり悪そうに続けた。
「和泉さんを本当に嫌ってる訳じゃないんですね」
私の言葉に一瞬目を上げ、考える様に少し空に彷徨わせる。
「兄貴だからな、一応。 出来るなら止めたかった。 それに……」
「…………?」
「俺も人の事はそんなに言えないって言っただろ? ただ加減は分かってるだけで。 欲しいものは俺も何したって欲しいとか、そういうやばい感情は持ってる。 逆に奴が居なかったら、俺がああなってたかと考えた事もある。 …だから俺たちみたいのに旭は狙われたのかも知んねえな」
彼が自嘲気味に少し目を落とした。