• テキストサイズ

Honeymoon

第10章 いくつかの誤解


「だけど旭。 ここに来たって事は、結局工藤を選んだんだな。 あんたらしい」

……それは違う。

「仕方ねえな。 こっちも旭の事騙してたみたいなもんだし。 色々悪かった」

『騙してた』

だけど最初に遥さんから言われても私はこんな事は信じなかっただろう。
彼は言わなかったというよりも言えなかったのではないだろうか。

どこからが本当でどこまでが嘘なのか。

和泉さんみたいに偽っていたのではなく。
でも最初のあれも、遥さんの姿。
何も無かった事のようになんて出来ない。
裏切りの一夜を思い出話にするなんて。


「遥さんとは違う出会い方をしたかったです……そしたら」

そしたら。


「……そうだな」

黙ったままの私の頬を遥さんが手のひらで包んだ。
その反対側に彼の唇が押し付けられる。

その暖かいキスに目を閉じて涙がこぼれた。

頬への、だけど彼と交わした初めての。

やがて惜しむ様にそれが離れた。


思慮深い目をした遥さんが何か言いかけて、口を閉じる。
それは私もだ。

お互いに別れの挨拶を探して諦めた。



彼がその部屋を去った後。
後から後から頬に涙が伝い、崩れる様にその場で泣いた。

床にぱたぱたといくつも小さな水溜りが出来て、そんな自分に驚いて、それでも止まらなかった。

「遥…さ、ん」

何度も口から溢れるその名前と涙。

「……ッう」


もう枯れて無くなるかと思える位に。




/ 122ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp