第10章 いくつかの誤解
「表の顔を失いたくないんなら大人しくしてろ。 勿論旭からは手を引け。 騙すな、傷付けるな。 ごく普通の事だ。 …ああ、そう。 これも持って帰って始末しとけ」
遥さんはベッドの下からいつかの黒い鞄を取り出すとそれも床に放り投げた。
和泉さんが憎々しげに遥さんを睨み、一度だけその目を私に向けた。
あの優し気な表情はもう無い。
おそらく彼の中での私は遥さんに属した敵、と認識されてしまったのだろう。
「……クソ」
その後しゃがんで舌打ちをし、床の書類をかき集め始めた。
その中には今日会った女性の写真もあった。
但し、裸、の。
「あのジジイさえ居なかったら……」
そんな事を小さく呟いていた。
「遥。 いつか借りは返すからな」
遥さんは表情を変えなかった。
和泉さんが踵を返してドアが音煩く閉まった瞬間。
それはこっちのセリフだと小さな溜め息をついただけだった。