第38章 ※分かった事、煉獄家のお出掛け
杏「そんな事は分からないだろう。第一俺は君の婚約者だ。君に関する事なら俺にも関係が…、」
「で、でしたら…っ…、でしたら…婚約を解消してください。全て忘れてください。私から離れて下さい…お願いします…。お願いします……。」
杏寿郎はそこまで言われるとは思っていなかった為 薄く口を開けて目を見開いたまま動けなくなってしまった。
桜はそのうちに去ろうとするも肝心の杏寿郎の手が一向に外れない。
「杏寿郎さん、離して下さい…っ!」
杏寿郎はその声にハッとすると桜を見下ろした。
そして桜が何故か焦っているように見え、眉を寄せる。
杏「何に怯えている。何を隠している。…君は俺の事をまだ好いているだろう。離れなければならないのは俺のせいか。」
桜はずっと強い目をしていたが、その言葉に一瞬瞳を揺らした。
だが、すぐに ぐっと歯を食いしばる。
「いえ、もうお慕いしておりません。早く忘れてください。早く離して下さい。」
必死になっている桜は自身が大粒の涙を流していることに気が付いていない様子だった。
あまりにも切羽詰まり、あまりにも辛そうなその様子に杏寿郎は狂おしいほど苦しくなった。
そして、手を離した。
桜は一瞬 杏寿郎が離した自身の腕を見て目の光を失ったが、すぐにパッと顔を伏せて表情を隠すと従業員の居る明かりが灯った部屋へ向かって走り去って行った。
杏(今はまともに話せそうにない。頃合いを見て改めて聞いた方が良いだろう。)
そう思うと杏寿郎は一度部屋へ戻り隊服に着替えてから見廻りへ出掛けた。