第97章 【番外編】花火大会
杏「では俺達はタクシーで帰るので今度こそ失礼する。」
「皆さんまたお会いしましょう!」
結局杏寿郎は桜のお陰で難を逃れ、義勇は無駄に傷付いたのだった。
―――
タクシーに乗り込むと、まだ浮ついた空気を孕んでいた夜の空気が遠退く。
それが少し寂しくて杏寿郎の手を握ると杏寿郎もまた握り返して微笑んだ。
杏「来年も来よう。その次も、その次もだ。」
その言葉に桜は満面の笑みで頷いた。
「はい。…これも "約束" 、ですね。」
杏寿郎はその言葉に優しい顔で微笑むと、こっそりと後部座席で唇を重ねた。
桜は顔を赤くしつつも大人しく受け入れた。
そして2人はいつも通り額を合わせると心底幸せそうに微笑み合う。
その約束通り、2人は来年も再来年も仲良く花火を見に行った。
やはり杏寿郎は屋形船を貸し切りにしてしまい 桜に少し怒られてしまったが、それでも自身の為にしてくれたとなると桜も強く出られなかった。
「杏寿郎さんは私に甘すぎます。このままでは頼りすぎてしまいます…。」
その言葉に杏寿郎は笑う。
杏「年下の君が年上の俺を頼るのは当たり前の事だ。気兼ねせず存分に甘えてくれ。俺にとってそれは好ましい。」
杏寿郎はそんな事を言って桜をべたべたに甘やかし、『そのまま依存してしまえば良い』だなんて悪いことを考えながら桜を抱き締めた。
桜はそんな思惑に気付かず、小さな声で返事をすると杏寿郎の背中に腕をまわす。
(相変わらず頼もしくて熱い背中だなあ…。)
そんな事を思いながらふと顔を上げると炎色の瞳と目が合う。
2人は微笑み合うと互いの頬を両手で包んだり、摘んだりして戯れ始める。
驚くほど呆気無く、穏やかな夏が続く。
きっと次の年もそうなのだろう。
煉獄杏寿郎という男のお陰で桜はそれを手に入れた。
桜はそれを季節が変わる毎に噛み締めた。
(来年も楽しみだな…。)
桜はそう思いながら心底嬉しそうに花咲く笑みを浮かべたのだった。
おしまい