第7章 炎柱様への提案
(こ、これ…治す気なの……?…頭削れて…これ…もうほとんど死んじゃってるんじゃ……)
『もう…またこんな傷作って…!』
突如、横から心配そうな桜の声が聞こえた。
桜が驚いてバッと横を見ると、世界がぐちゃぐちゃに混ざっているかのように室内風景が広がっている。
(………みのる…と、中学の制服の私……)
並行するように存在する世界の中で、弟のかすり傷を桜が治している。
みのるが申し訳なさそうに桜の顔を覗き込むと、桜は眉尻を下げて微笑み 弟を柔らかく抱きしめた。
桜はそのまま みのるの頭を大事そうに優しく撫でたあと、肩を掴んで体を離し 目線を合わせる。
『内緒だよ?』
『約束するよ。』
いつもの約束をすると、二人は額をくっつけて楽しそうに微笑みあった。
(………みのる…。弟を治す光景に違和感はない。…けど……、)
桜はその暖かな光景から視線を外し、また前を向く。
(これは…いつ…?……こんな傷…無理だよ……。)
桜が固唾をのんで見ていると、少女はキョロキョロと周りに人がいないのを確認してから傷に手を伸ばす。
『…治ってっ…早く!!』
そうして赤い体を五回ほどずつ撫でると瞬く間に傷は戻っていった。
しかし気になったのは桜の様子。
『あっ…ぅ…いた、ぃ…っ……ーーーッッ!!!』
頭の治療をした直後、まるで男の子の痛みが移ったのかのように頭を抱えて泣き出したのだ。
(……………何、してるの……)
呆然としている桜の目の前で、少女は涙をためて息を切らしながらも、人に見つかるのが一番怖いかのように慌てて走り去って行った。