第7章 炎柱様への提案
桜はゆっくりと目を閉じて、丁寧に記憶を探るように深呼吸をした。
(大丈夫。ユキの事を思い出したのはここに来る前だったけどまだ覚えてるもの。私は何もかも忘れてるわけじゃないはずだ…。)
そう思いながら、桜はぐっと眉を寄せた。
―――――――――
耳を澄ましてからどのくらい経ったか分からなくなった頃、とても遠くから小さな息遣いが聞こえた。
『はあっ…はあっ…ど…し、よう……』
それは段々とはっきり聞こえるようになる。
(…これ…私の声……?…)
『…居た…っ……!』
続けてぼんやりと映像が浮かぶ。
それも次第にくっきりと鮮明なものへと変わっていく。
(…ここは……?)
どこか懐かしい建物の下。
そこには真っ赤に染まった男の子が倒れていた。
その子の前まで転びそうになりながら小さい頃の桜が走っていく。
(あの子…やっぱり私だ…。男の子は誰…?……まさか、このマンションから落ちたの…?)
不思議な感覚に戸惑いながら、桜は高いマンションを見上げ、男の子に近付いていった。
(………うっ…!)
桜は男の子を見て思わず嘔吐きそうになる。
男の子は頭が削れ、両足はグロテスクに曲がっていた。