第36章 任務同行
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「今の…勇重さんでしょうか?」
杏「足音から察するに頼勇さんもいたと思うぞ。父上が一ノ瀬家へ行きたがらない気持ちは理解出来るが彼等もまた譲りそうにないな。」
「そうですね…。家が割と近かったのが救いかな…。」
そうひとり言のように呟くと桜は杏寿郎の腕の中から何気なく周りの景色に目を遣る。
「………杏寿郎さん?帰り道じゃないような気がします。」
その言葉に杏寿郎は驚いたような顔を向けた。
杏「時間が取れ次第向かうと言っただろう!」
「あ!縫製の……、」
杏「そうだ!!」
良い笑顔で返事をする杏寿郎の額には矛盾するように青筋が立っていた。
(…………大丈夫かな、縫製係の人……。)
杏寿郎は時折 紙を手にして確かめながら走り、とうとうそれと思しき建物の前に立った。
「運んでくださってありがとうございます…。」
そう言いながら地面に足を下ろすと杏寿郎は桜に表情を隠したまま門へ向かう。
杏「君は……隊服に俺が贈った羽織りを着ていてくれ。羽織りは前を閉じるようにしっかりと掴んでいるのだぞ。」
「はい…。」
(振り袖じゃないんだ…目を引くからかなあ…。)
杏寿郎が声を掛けて間もなく、中から出てきた隠はその場で飛び上がると急いで中へ案内した。