第36章 任務同行
その提案に杏寿郎は渋りに渋ったが意志の強い目をずっと向け続ける桜にとうとう小さく息をついた。
杏「戦闘中は立ち回れるようにきちんとユキの体を借りて隠れていてくれ。それから前にも言ったがユキの姿であろうと知らぬ男とは二人きりになるな。人の姿になるからにはより一層気を付けてくれ。」
「は、はい!!」
話が一段落した事を感じ取るとユキは首を傾げながら二人に目を遣る。
ユ『そういえば槇寿郎はなぜ来ていないのだ。杏寿郎と桜が此処へ来ることは知っていたのだろう?』
杏「すまないが行きたくないとのことだ。」
「ユキのせいじゃないんだよ。ここの人達が歓迎するだろうから却って行きづらいんだって。」
それを聞くとユキは少し目を大きくしてから残念そうにヒゲを下げた。
それを慰めるように撫でると桜は少し様子を窺うような小さめの声を出す。
「それで……柱の方達には信仰してもらえたの…?」
ユ『……蜜璃だけだ。』
杏「納得の結果だな!!」
「一人かあ…。あんな神様らしくない怖い顔するからだよー。それにしても蜜璃ちゃんは本当に心が綺麗なんだね。」
そう言うと桜は眉尻を下げて微笑んだ。
―――
杏「ではユキ、また来る!父上の説得も続けるので待っていてくれ!!」
「隊士さんにゆるゆるした態度とっちゃだめだからね!」
前回とは違って見送りに来たユキは少し寂しそうに尻尾だけ揺らして返事をする。
それに桜が眉尻を下げて近付こうとした時、慌ただしい足音が聞こえてきた為 杏寿郎はすぐさま桜を横抱きにして地を蹴った。
杏「何か用があれば頼勇さんに手紙を書いて貰うと良い!駆けつける!!」
その言葉にユキは嬉しそうに目を細めた。
そして隣に駆けつけてきて息を切らしている勇重と頼勇に目を向ける。
ユ『その扱いをやめない限り槇寿郎は来てくれないそうだぞ。』
勇「で、ですが…命の恩人に……、」
そう言い淀む勇重を見てユキはまた残念そうにヒゲを下げた。