第36章 任務同行
そう言うと桜は羽織りを持って立ち上がった。
「でも…、千寿郎くんの前で泣いた後だったから杏寿郎さんの言葉がちゃんと入ってきたんだと思うの。だから…、本当にありがとう。」
羽織りを衣紋掛けに吊るすと桜は振り返って千寿郎にぺこっとお辞儀をする。
千「そ、そんな…っ!僕は何もできなくて…。」
「何もしてないと思うのなら尚さらすごいんじゃないかなあ…。私、前の時代で泣いたこと殆どないんだよ。今は結構泣き虫になっちゃったけど…。」
桜は千寿郎の前に座り直して千寿郎の手を掴んだ。
「弟は…みのるは千寿郎くんと似てない。確かに年齢は生きていたら近かったし二人とも優しいけれど…でも、私は千寿郎くんのことをちゃんと千寿郎くんとして見てるからね。だから…、」
千寿郎は桜の温かい手のぬくもりを感じると遠慮気味に握り返す。
「だから何て呼んでも大丈夫だからね。」
千「…………。」
桜は千寿郎が度々『姉上』と言いかけてから『桜さん』と訂正する事が気に掛かっていたのだ。
少し困った様に眉尻を下げている千寿郎の頭を桜は微笑みながら再び優しく撫で、杏寿郎が風呂を上がるまでの間二人は他愛もない話を続けた。